ウォールストリートジャーナルによれば、ICE(米国移民・関税執行局)は裁判所の令状なしに不法滞在の容疑者宅を強制的に家宅捜査、逮捕をしている。アメリカでは1789年の憲法修正第4条で、裁判所の令状なしに家宅捜査、逮捕することを禁止しているが、その大原則が破られているのである。
トランプ大統領はこの他にも、アメリカで生まれた者にはアメリカ国籍が付与されるという憲法修正14条について「不法滞在者や一時的滞在者から生まれた子は除く」と解釈を勝手に変更しようとしている。
このようにトランプ氏が憲法を無視ないし軽視することができる背景のひとつに、アメリカで司法の権力チェック機能が低下していることがある。2024年7月1日、米連邦最高裁は、保守派裁判官6人の賛成、リベラル派裁判官3人の反対により、大統領の公的な行為は刑事責任を免除されると判決した。リベラル派のソトマイヨール裁判官は、「今や大統領は法の上に立つ王となった」と述べたが、そのとおりになっている。
ところで、アメリカで司法による権力チェック機能が低下した原因のひとつに、リベラル派のギンズバーグ氏が最高裁判事の席にしがみついて、その結果、その席を保守派判事に明け渡すことになったことがある。
アメリカの連邦最高裁は長い間、保守派5人、リベラル派4人という構成であったが、保守派の一人がスイングボーターとなり、判決が保守、リベラルどちらか一方に傾くことを避けてきた。このバランスを維持するため、オバマ大統領は高齢でがん治療をおこなっていたギンズバーグ氏(アメリカで2人目の女性最高裁判事)に辞職して、若いリベラル派判事に席を譲るよう説得を試みたが、ギンズバーグ氏はそれを受け入れなかった。
その後、トランプ大統領(第1期)が誕生し、上院も共和党が多数派となる。最高裁判事は、大統領が指名し、上院が承認するため、ギンズバーグ氏がリベラル派判事に席を譲ることはできなくなった。そして、2020年9月18日、ギンズバーグ氏はがんにより死去(87歳)。その席は保守派のバレット判事にわたり、保守派6人、リベラル派3人という今につづく構成が生まれることになった。
その後、ロバーツ長官とカバノー判事がリベラル派と意見を同じにして、スイングボーターの役割を果たすこともまれにみられるが、最高裁の判決は大きく保守派に傾くことになった。それを示すのが、中絶の憲法上の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」の破棄(2022年6月)、大学選考で少数者を優遇するアファーマティブアクションの違憲判決(2023年6月)などである。大統領の刑事免責を認めた判決(2024年7月)は、その延長に生まれたものである。
ギンズバーグ氏の判断については、それを擁護する意見もあるようだが、その意図はともかく、ギンズバーグ氏の判断が違っていたら、現在のトランプ氏の無軌道なふるまいが生まれることはなかった、あるいは少なくとも今とは違うものになっていた可能性が高いと思われる。ギンズバーグ氏の生前の功績(「RBG最強の85歳」や「ビリーブ 未来への大逆転」という映画によくまとめられている)を否定するものではないが、オバマ大統領のときに辞職しなかったのはこれまでの功績を上回るほどの大きな誤りであったと思う。
2026/1/25 追記
これが犯罪として起訴されなければ、もはやアメリカは法治国家とすら言えないのではないだろうか。
Videos Show Moments in Which Agents Killed a Man in Minneapolis - The New York Times
